eモータースポーツ×ブレインテック実証を実施

VIE STYLE株式会社のプレスリリース

 VIE STYLE株式会社(所在地:神奈川県鎌倉市、代表取締役:今村 泰彦、以下 VIE STYLE)、KDDI株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:高橋 誠、以下 KDDI)、株式会社アイロック(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:古賀琢麻、以下 IROC)、合同会社レーシングヒーロー(本社:東京都墨田区、代表社員:紀平 啓佑、以下 レーシングヒーロー)は、脳科学とIT技術を組み合わせたブレインテックを活用し、脳の認知能力を高めることでeモータースポーツのドライビングテクニックの向上を目指す実証実験(以下 本実証)を2021年12月14日から2022年3月11日まで実施しました。

 

 

 本実証には、eモータースポーツ(注1)で活躍する宮園 拓真選手や佐々木 唯人選手など8名が被験者として参加しました。被験者のうち、脳の認知能力を高めるトレーニングを受けた2名について、シミュレーターでの筑波サーキット走行時のベストラップを比較し、ドライビングテクニックの向上について確認しました。
 今後4社は、実車での走行テストなどを行い、将来的にeモータースポーツのプレイヤーがプロレーサーを目指すことができる環境の整備や技術開発を進めていきます。

 

 

  • 背景・課題

・プロスポーツでは、ゲームを活用したトレーニングが増えています。特にモータースポーツは、ステアリングやペダル操作が同一のため、シミュレーターの親和性が高い一方、実車は加速度(G)などの違いがあり、実車のドライビングテクニックの向上に結び付かない可能性も指摘されています。

 

・脳科学研究の進展により、プロスポーツ選手のスキルと脳の認知機能の関連性が明らかになってきています。モータースポーツにおいても、レーサーが一般人と比べ反応速度が早いという結果が報告(注2)されています。リアルタイムに選手の脳波を可視化し目的の脳活動に近づける「ニューロフィードバック」の活用で、脳の反応速度向上につながるトレーニング技術の研究も進み、将来的には多くのeモータースポーツのプレイヤーが実車のレーサーとして活躍できる可能性が広がっています。

 

  • 本実証の概要

・本実証は、ブレインテックのトレーニングによる、シミュレーター上でのドライビングテクニックの向上を目的としています。実車のレースやeモータースポーツで活躍する4選手を基準に、多様な脳の評価・比較を行い、トレーニング対象となる脳の認知能力(脳スキル)を特定しました。
・その後、トレーニングを実施する2選手(トレーニー2選手)に対し、例えば認知テストにおける脳の反応時間の短縮やポジティブな感情戦略をとるなど、伸びしろが大きいと想定される脳スキルを高めるため、ニューロフィードバックを利用したトレーニングを実施しました。

・トレーニング前後に、シミュレーターで筑波サーキットを5周走行した際のベストタイムを比較しました。結果、トレーニングを受けた2選手は、トレーニングを受けていない6選手(コントロール6選手)と比較してベストタイムを約0.6秒短縮できました。

<トレーニング前後でのベストラップ比較>

本実証の詳細については下記をご参照ください。

  • 本実証について

1.目的
脳の認知機能に着目した新しいドライビングスキルのトレーニング方法の開発を目的としています。
2.参加者
(1)ベンチマーク選手(基準となる認知能力の分析対象選手)

区分 選手名 経歴
リアルレーサー 平良 響選手 2022年全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権
Kuoモビリティ中京 TOM’S320 38号車ドライバー
eモータースポーツ出身リアルレーサー 冨林 勇佑選手 グランツーリスモ トッププレイヤー / レーシングドライバー
・FIAグランツーリスモチャンピオンシップ2016 マニュファクチャラーシリーズ チャンピオン
・スーパー耐久シリーズ 2020/2021 ST-3クラス シリーズチャンピオン
eモータースポーツ出身リアルレーサー 山中 真生選手 GOODRIDE MOTORSPORTS所属ドライバー
・Formula Drift Japan 2 チャンピオン
eモータースポーツ 山中 智瑛選手 グランツーリスモ トッププレイヤー
・FIAグランツーリスモチャンピオンシップ2019 / 2021 マニュファクチャラーシリーズ ワールドチャンピオン
・TOYOTA GAZOO Racing GT CUP2021 シリーズチャンピオン
・全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI / 2020 KAGOSHIMA 一般の部 優勝
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2021Series Team BATTLE 優勝
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2021Series INDIVIDUAL MATCH GRAND FINAL 優勝

(2)本実証への参加

役割 選手名 経歴
トレーニー(トレーニング実施) 宮園 拓真選手 グランツーリスモ トッププレイヤー
・FIAグランツーリスモチャンピオンシップ2020 ネイションズカップ ワールドチャンピオン
・FIAグランツーリスモチャンピオンシップ2020 マニュファクチャラーシリーズ ワールドチャンピオン
・TOYOTA GAZOO Racing GT CUP2020 シリーズチャンピオン
・全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2021 一般の部 MIE 一般の部 優勝
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2021Series Team BATTLE 優勝
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2020Series INDIVIDUAL MATCH GRAND FINAL 優勝
トレーニー(トレーニング実施) 佐々木 唯人選手 グランツーリスモ トッププレイヤー
・全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI 少年の部 3位
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2020Series Team BATTLE 優勝
コントロール 菅原 達也選手 グランツーリスモ トッププレイヤー
・Porsche Esports Racing Japan 優勝
・Roots Ambitious Cup 優勝
・AUTOBACS JEGT GRAND PRIX 2020 Series Round Final INDIVIDUAL MATCH 2位
・Porsche Gran Turismo Cup Asia Pacific 優勝
コントロール 菅原 幹選手 DIRT RALLY 2.0 トッププレイヤー
・RT93 e-sport所属
・ESPORTS WRC 2022 Round3 21位
コントロール 浅賀 颯太選手 iRacing トッププレイヤー
・iRacing Official Series『ADVANCED MAZDA MX-5 SERIES』2022 SEASON1 ワールドチャンピオン
コントロール 山中 智瑛選手 同上。コントロール選手としても参加。
コントロール 山中 真生選手 同上。コントロール選手としても参加。
コントロール 匿名 iRacing トッププレイヤー

3.実証方法
多様な認知能力の評価を行うテストをベンチマーク選手に行い、その結果に基づいてトレーニング対象とするスキルを特定しました。その後、トレーニー2選手に対しては、ニューロフィードバックも利用した認知能力のトレーニングを実施しました。

<ニューロフィードバックの仕組み>
4.評価方法
IROCのドライビングシミュレーター「T3R Simulator」とレーシングシミュレーターゲーム「iRacing」で、筑波サーキットを5周したベストタイムをトレーニング前後で比較しました。
※「iRacing」でMAZDA Roadster(MX-5)を使用

<佐々木選手の「T3R Simulator」でのドライビングの模様>
5.トレーニング内容
ウェアラブル脳波計「VIE ZONE」を利用したニューロフィードバックトレーニング(α抑制)に加え、ストループ課題(佐々木選手)とポジティブ感情制御ニューロフィードバックトレーニング(宮園選手)を週1回、4週間にわたって実施しました。

<宮園選手による脳トレーニングの模様>
6.検証結果
【結果1】認知課題成績の変化の確認(GoNoGo課題の反応時間(上)とストループ効果(下))
トレーニングにより、特に佐々木選手の反応時間の短縮とストループ効果(色名と色が一致していない際に反応時間が遅くなってしまう現象)の減弱に成功しました。

【結果2】レース成績の向上(「iRacing」のラップタイム短縮)
トレーニング2選手は、筑波サーキットのラップタイムを65.496秒から64.886秒に0.61秒短縮することに成功しました。(トレーニングを受けていないコントロール選手は、65.040秒から65.154秒+0.114秒、交互作用 F(1,6)=15.5402 p=0.007)

7.体制
・本実証では、プロレーサーのトレーニングから市販車のバーチャル試乗、交通安全啓蒙などあらゆるシーンで活用の実績があるIROCの「T3R Simulator」を採用しました。また、現役プロレーサーでもあるIROCの古賀代表から、リアルでの運転とドライビングシミュレーターの違いの技術的なアドバイスを受けました。
・本実証参加者となる8名のeモータースポーツ選手のトータルマネージメントを、eモータースポーツの番組作成やイベント企画を実施するレーシングヒーローが行いました。
・本実証では、株式会社トムス、日本グッドイヤー株式会社が協力しています。今後、ドライバー育成に関する知見の共有や、実車でのトレーニングにも取り組んでいきます。

社名 役割 内容
KDDI プロジェクト全体マネージメント 全体企画設計、各パートナーアレンジ・マネージメント、ビジネスモデル設計
アイロック レーシングシミュレーター「T3R Simulator」の活用 シミュレーター活用のサポート、仮設の設定やリアルドライバー視点での課題提起などトータルアドバイザー
VIE STYLE 脳波測定・分析 脳波を測定し、ニューロフィードバックを経て脳のトレーニングプログラムを開発・実行
レーシングヒーロー eモータースポーツ選手のマネージメント eモータースポーツ関連ディレクション等コンサル業務
eモータースポーツ選手のアレンジ、ベンチマーク設定など
トムス ドライビングシミュレーター、実車トレーニングのサポート トムス社製シミュレーターの活用
「フォーミュラカレッジ」でデジタルトレーニング実施後の実車トレーニング(実施予定)
日本グッドイヤー 実車トレーニング時の車両提供など 実車トレーニングのための車両提供、ヤリスカップカーでの走行機会の提供
インテル PC(CPU)の提供 脳波分析や選手のニューロフィードバックで使用するPCの構成検討・機材提供(予定)

(参考)
■実証方法(詳細)
(1)認知機能の特定のためのテスト

①ストループテスト 認知/注意制御系 意味と色の干渉下で「色」を答える(抑制と特定の対象への注意制御)課題
②GoNoGo 認知/注意制御系 二つの円が提示され「黄色と赤」の刺激のみボタンを押してはいけない課題
③マルチオブジェクトトラッキング 認知/注意制御系 12個のドットのうち指示された3個を12秒間追跡する課題
④アスリート向けの感情制御の尺度 感情制御系 Emotion Regulation Questionnaire(注3)、emotion regulation strategies(注4)
⑤感覚運動適応タスク 感覚運動系 アクセル・ブレーキ特性の異なる新しい車両に順応する能力を計測する課題
⑥Sensory Motor TaskにおけるSpeed-Accuracy Optimization 感覚運動系 オブジェクトを操作し周回路を1周する課題
⑦自身運動情報(速度)の知覚能力 感覚運動系 自身の過去の速度を弁別する課題
⑧空間把握(記憶・自己位置)タスク 空間認知系 空間記憶課題

(2)個人の認知能力の評価
本実証で、トレーニー2選手(宮園選手、佐々木選手)と、ベンチマーク選手を比較した際に、相対的に伸びしろがある認知機能は以下の通りとなりました。

宮園 拓真選手 GoNoGo課題における反応時間、ポジティブな感情戦略
佐々木 唯人選手 GoNoGo課題における反応時間、ストループテストのストループ効果

(3)トレーニング方法の開発と実践(週1回4週間実施)

①ニューロフィードバックによるα抑制トレーニング GoNoGo課題の成績を高めることが報告されている(注5)α波(8-13Hzの脳波成分)の抑制トレーニング
②ポジティブ感情ニューロフィードバックトレーニング(宮園選手のみ) ポジティブ/ネガティブなエピソードを繰り返し想起し、その際の脳波データを基に脳情報解読器(デコーダー)を学習させ、それを利用して本人がポジティブなことを想起している脳の状態を自ら作り出せるようにトレーニング
③課題の実施によるトレーニング(宮園選手:GoNoGo 佐々木選手:GoNoGo+ストループ) 測定課題を実施

(注1)eモータースポーツ:カーレースを題材としたゲームの大会
(注2)出典:Baur, H., Müller, S., Hirschmüller, A., Huber, G., & Mayer, F. (2006). Reactivity, stability, and strength performance capacity in motor sports. British journal of sports medicine, 40(11), 906-911.
(注3)出典:Uphill, M. A., Lane, A. M., & Jones, M. V. (2012). Emotion Regulation Questionnaire for use with athletes. Psychology of Sport and Exercise, 13(6), 761-770.
(注4)出典:Lane, A. M., Beedie, C. J., Devonport, T. J., & Stanley, D. M. (2011). Instrumental emotion regulation in sport: relationships between beliefs about emotion and emotion regulation strategies used by athletes. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 21(6), e445-e451.
(注5)出典:Deiber, M. P., Ammann, C., Hasler, R., Colin, J., Perroud, N., & Ros, T. (2021). Electrophysiological correlates of improved executive function following EEG neurofeedback in adult attention deficit hyperactivity disorder. Clinical Neurophysiology, 132(8), 1937-1946.

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